ある衝動『ある衝動』050327自分の精神がものすごく不安定だと自覚した。 突然、降って湧いたような怒りの、抑制が効かなかった。 その怒りは少しも具体的ではなく、ものすごく抽象的なのである。 わたしの内側では、順序だてて起こった怒りであるにも関わらず、 「一体何なの?」と周囲の誰の目にも、それは唐突としか捉えられなかった。 日曜日。 いつものように、起床した。 否、いつもより少し遅れての起床であった。 前夜次女の帰りが遅かったので、気になって眠れなかったのだ。 それで明け方不覚にもつるりと眠ってしまい、寝坊と相成った。 次女には待たないで良いと言われるが、はいそうですかと眠れるほどわたしの神経は太くはない。 その上、TOEICの受験を知っていたので、ベストコンディションで臨まないことに、 少なくともわたしは腹を立てていた。 結局、数時間足らずの睡眠を取って、慌しく試験会場に出かけて行ったのであるが、 集中力などあるはずもなく、やはりスタミナ不足の彼女の身体が気になった。 やがて、彼氏の所へ行って来た長女が帰宅した。 前から約束していたメガネの購入のためである。 さんざん探した挙句、気に入ったものがなかったので、購入は次回ということになった。 試験が終わった次女と合流し三人で軽く食事をした後、今度は靴屋を歩いた。 これは、バイトで履いていたパンプスが紛失したので買いたい、 という次女の要望だった。 春から夏に向けたカラフルな売り場で、おしゃれな靴を二足ずつゲットした子供たちは、 安物にもかかわらず嬉しそうだった。 そんなこんなで、やっと我が家に辿りついた時、全員が疲労困憊の極限に達していた。 朝起きて干した洗濯物を取り込んで畳んでいても、 それらを箪笥にしまいこんでいても、娘らは知らない素振りだった。 その時、腹の底をえぐられる様な怒りがこみ上げてきたけれど、 「まぁいいか」と自分を宥めて抑え込んだ。 亡き母のように、自分がしてやれるうちには、やってやろうと思ったからだ。 それにしても最近のわたしは疲れやすい、これしきのことでバテルことはなかったけれど……。 午後から出かけてしまったので、風呂掃除は遣り残していた。 どちらかに頼みたいと思ったけれど、動いてくれそうもない。 仕方なくそのまま言葉を飲み込んで、もくもくと風呂掃除をした。 それなのに、電話で呼び出しがかかると、次女はいそいそと出かけて行った。 なんだか、悔しくて涙が溢れてきた。 これくらいのことで、と思いながらも涙がこぼれてしまう。 ゆっくりと、日曜日の夜に見るつもりで借りてきた新作ビデオ、 『誰にでも秘密がある』は、期待はずれで少しも面白くなかった。 途中で見るのを止めてしまったから、どんな結末になったのか知らないけれど、 この面白くないビデオが、わたしの神経をものすごく逆撫でをした。 少しイ・ビョンホンを嫌いになった。チェ・ジウも嫌だ。 なんでこんな映画に二人は出演したのだろうか?品がない。 ざっとこういうプロセスで、わたしはものすごく不機嫌になった。 世の中すべてのことが、嫌になってしまった。 その感情は、唐突すぎるくらい唐突に、わたしを襲ってきたのだった。 家族が心地よく過ごせるために、わたしは家事にいそしむ。 本当は家事が大好きなのだけれど、際限のない散らかしようについ言葉を荒げてしまった。 せめて自分が出したものくらい、片付けたらどうなの? わたしは、あなたたちの女中ではないよ、と。 しかしながら、次女から返ってくる言葉には、いくらかの棘があった。 「母さんを心地よくさせるために、家に帰ってくる訳じゃないんだから、 うるさくつべこべ言わないで」 わたしは、その『つべこべ』に傷ついてしまった。 つべこべ言うのが、母親じゃないか、と……。 母親だからこそ、口うるさく注意ができるのに……。 次女の言うように、何も言わない都合の良い母親になることは、どこかで間違っている。 でも、不本意ながらも家族を壊してしまう羽目になった負い目が、対等に論じ合うことを禁じた。 そして、もうこの辺で良いじゃないか、と促している。 何も言わないで、都合の良い母親を演じてみようか。 だけどそれでは、わたしが生きていかれないと思う。 自分の価値を見出せないと思う。 結局、家族の重荷になっている自分しか見えなくなるだろう、と思う。 わたしは、八階の窓からじっと下を見た。 突き上げてくる衝動に、歯を食いしばった。 ジャンル別一覧
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